5年前のこと 「あなたの夢をみた朝に」
今から5年前、愛知県名古屋市での展覧会へ参加するための音楽を作っていた。
フィールド・レコーディング(野外録音)をしながら名古屋市で取材をはじめ、初日の最後にたどり着いたのは熱田区の堀川。流れにマイクを向け録音を終えて、移動しようと振り返ると、痛ましく穴が空いたコンクリートがあった。それは戦後に保存された川の護岸の一部で、穴は1945年6月9日、愛知時計電機など当時の軍需工場を標的にした熱田空襲の傷跡だった。
地霊が語るものは、その都市の歴史と未来の予感、人の存在と営み、経済、社会。そして、かつて爆弾が落とされ、焼かれ、壊された記憶を留めるものたちの声。各地に立つ慰霊碑。戦災からの復興、土地区画整理事業でつくられた平和公園、久屋大通と若宮大通の2つの100m道路、地下鉄や地下街、多くの公園は名古屋市の脈動や息づかいとなり、時間の堆積は複雑に交差し、うねるような変化の最中にいた。戦後70年、2015年のことだった。
音楽、CDは、人々の想いが集まり残っている場所を取材し、制作することに決まっていった。はじまりは森の中、夜明けを迎え目覚めた鳥の声に包まれた瀬戸市「海上の森」。そこは2005年の日本国際博覧会(愛・地球博/愛知万博)の会場候補地になった場所だった。(海上の森には、それから2年後の2017年の作品で戻ってくることになった)
いろいろなものを取材し、いろいろなものを感じ、出会った。様々な人々の想いは風に漂い、硬い石のような事実は、ただそこにあった。県内のある場所では、戦地にいる夫へ妻から送られた戦時中の手紙の展示を見た。色とりどりの花や光、幼い子供の手形。祈りのようなメッセージ。
戦時中の今はあるヒロインが登場する物語が楽しみなんですと夫へ綴る女性の手紙の一節には、戦争で離れ離れになっている寂しさや、その時間を生きる意志や気持ちの強さが感じられた。
出来上がった音楽のタイトルは「あなたの夢をみた朝に Last Night, I Had a Dream about You」となった。これは確かに僕が創作したものかもしれないけれど、それが自然と必要に思われた言葉、フレーズだったという気持ちは今も変わっていない。
起きた戦争は、いつか遠い出来事になるのかもしれない。でもそれを自分たちのこととして受けとめ、なにかの形で記憶に残していきたいという気持ちは、今を生きているものとして強く感じている。
2020年8月15日